かってに漫画レビュー

漫画を勝手に分析したり考察したりして感想を書いていく予定です。

【漫画レビュー】異世界薬局 1巻

出典:異世界薬局 1巻より

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作品名:異世界薬局

著者:高野聖 原作:高山理図 キャラクター原案:keepout

連載誌/レーベル:MFC

出版社:KADOKAWA

ジャンル:青年マンガ

ebookjapan 紹介文より

研究に没頭するあまり過労死した若き薬学者。しかし彼は異世界で宮廷薬師の息子、ファルマとして転生した。間違った治療法が横行するこの異世界で彼は現代薬学と手に入れたチート能力であらゆる疾病に立ち向かう。

「なろう漫画」です。
ebookjapanで1巻が無料で読めるのでレビューをしたいと思います。

 

登場人物

出典:異世界薬局 1巻より

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ファルマ・ド・メディシス
主人公。名門貴族であり薬師のもとに生まれた次男。
転生前は創薬の分野において世界トップクラスの研究者でした。

 

出典:異世界薬局 1巻より

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エレオノール・ボヌフォワ
ヒロイン。主人公の父親の弟子であり、主人公の家庭教師。16歳。

 

出典:異世界薬局 1巻より

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ブリュノ・ド・メディシス
主人公の父親。宮廷薬師。「尊爵」という侯爵よりさらに上の爵位だそうです。

 

あらすじ&レビュー

第1話:転生薬学者と異世界

前半:転生前

妹を脳腫瘍で亡くした主人公は「あのとき飲むだけで効く薬があればよかったんだ!」「なければ俺が創ってやる!!」と薬学者になりました。
しかし頑張り過ぎた結果、31歳で過労死しました。
そしてお約束の異世界転生です。

きちんと現代での様子を描いてからの異世界転生です。
まぁこの漫画のコンセプトとして、主人公がどんな現代知識を持っているか、というのはきちんと説明しなきゃいけないですからね。
「なろう漫画」ではよく「何で普通の高校生がそんな知識持ってんだよ」みたいなことが起きますが、この漫画では、少なくとも薬学の知識においては「だって主人公は世界トップクラスの研究者だから」で済みます。

後半:転生後

で、転生した先は、ファルマという名前のファンタジー世界の薬師の息子でした。
ファルマは雷に打たれて気を失った後ベッドに寝かされていたようです。
そんな状態だった割には周りの反応が薄いのが気になりましたが。
そんなこんなで目覚めた時には転生状態だったというわけです。
そして主人公の両腕には「薬神の聖紋」のような痕が残っていました。

正直、最初は「薬学者が薬師の息子に転生て都合よすぎィ!」と思いましたが、よくよく考えてみると、薬神とかいう神様が現代日本の有能な薬学者の魂をこの世界に連れてきた、と考えれば都合がよくても当たり前なんですよね。
何か意味ありげな伏線がいくつか張られていますし、その可能性はあると思います。

出典:異世界薬局 1巻より

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で、この「神様」の存在が、この漫画において重要な役割を担っていそうです。
普通のファンタジーモノだったら「魔法」というところを、この漫画では「神術」と呼んでるのもその一つだと思います。

 

第2話:エレオノールの神術講座

前半:医療レベルについて

家族との食事シーンです。

食事中に父親から薬学問題を出されるのですが、やっぱりこの世界の医療レベルは相当低いみたいです。
まぁ、現代知識で俺TUEEEする話なんだからそうでしょうね。

出典:異世界薬局 1巻より

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まぁ現代日本ならバカにされてもしょうがないレベルですよね。
ただし、神の奇跡が存在するファンタジー世界ならどうでしょうか。
「満月の夜は神力が強まる」とか「身を清めれば神力が強まる」とか「祈りを捧げれば神が力を貸してくれる」とか「聖水は神の力が宿っている」とか、ファンタジー設定としてはありがちな設定ですからね。
ここらへんの話は後程でも考察してみたいと思います。

 

後半:神術について

エレオノールという家庭教師から、神術についての説明を受けました。

この漫画、基本的には「現代知識チートモノ」なんですけど、ここで主人公には「魔力チート」と「チートスキル」まであることが判明します。
「魔力チート」は純粋に魔法=神術の力がスゴイっていうだけじゃなく、構造式を知ってる物質なら何でも作れるという、家庭教師いわく「そんな能力が使えるとしたら神様か化け物」というようなものでした。

出典:異世界薬局 1巻より

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消す能力までありました。消せる物に制限はあるんでしょうかね。ないと困りますが……

「チートスキル」は、問題のある体の箇所が光って見えるうえ、病名を言うと正解かどうかも教えてくれる能力です。さらにどうやら、薬名を言うとそれがどのくらい効果があるかも教えてくれるみたいです。

出典:異世界薬局 1巻より

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そんな能力、人間じゃないそうです。あと主人公に影がありません。

あとは知識さえあればいいわけですが、それは主人公が世界トップクラスの研究者だったのでクリアです。
これで主人公は、チートスキルによって病気と必要な薬を簡単に特定することができ、チート神術によって材料集めをすることなく薬を作ることができます
第1話でも言った通り、薬神様がチート能力を授けたうえで転生させた、と考えれば都合よすぎでもいいんですが、それにしても便利すぎますよね。
まぁでもここまでお膳立てしないと「知識だけあっても…」という感じで話が進まないならしょうがないんでしょう。
そこまでやるなら「何でも治せる薬を出す能力」を授ければいいじゃん、とも思いますけど、それをやったら物語にならないですしね。
一応、薬神様自身が「あらゆる病を見抜いて症状に応じた薬を授ける」という能力を持ってるらしいので、逆に、そこまでの能力しか持ってないと考えられるので理屈は合います。

ちなみに神術の説明で「生涯で使える神力の絶対量は決まっている」という話があったのですが、それがホントならおいそれとは神術を使おうと思わないと思うんですが、そこらへんどうなってるんですかね。
主人公たちガンガン使ってますけども。私の理解の仕方が間違ってるんでしょうか。

 

第3話:ド・メディシス家の人々と、ファルマの能力

前半:ヒロインとのイチャコラ

チート主人公の化け物っぷりに怯えた家庭教師が「辞めたい」と言い出したので、引き留めに行きます。
そのかいあって家庭教師は続けることになり、無人島でイチャコラしながら神術の特訓をしました。

家庭教師の家に来た主人公に対して、家庭教師は「殺される」と思って大騒ぎします。
まぁここらへんはギャグとして描かれてるんだろうとは思うんで、リアリティの無さに文句言ってもしょうがないとは思うんですけど、そこにシリアスとか感動とか恋愛とかマジメな要素を絡めた時に一気に気にかかるようになっちゃいますね。

出典:異世界薬局 1巻より

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前後の流れもあるのですが、ここまで本気で「殺される」と思うのはおかしいだろって思っちゃいました。この後も、

出典:異世界薬局 1巻より

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しつこいですよ。普通に風邪薬です。

後半:薬をプレゼント

メイドに手荒れの薬を、母親に腰痛の湿布薬をプレゼントしました。

母親に湿布を貼るシーンなんですが、

出典:異世界薬局 1巻より

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前後はもっと露出の多いコマになってます。
母親相手のこういうシーン要ります?個人的にはすごい苦手です。

まぁただ最終的に「この世界の人々のために医薬の普及と奉仕がしたい」と考えるようになるエピソードでした。

 

第4話:サン・フルーヴ帝国皇帝の診察

前半:妹の水痘(水疱瘡)の治療

4歳の妹が水痘(水疱瘡)にかかってしまいました。
この世界の医療レベルでは水痘(水疱瘡)に効く薬がないため、主人公がこっそり作って飲ませました。

例の方法で薬を作りました。ほんとに便利です。
それどころか、さらに便利な能力が追加されました。
右手の指で輪を作ってそこを覗くと、患部を拡大して見ることができるようです。
ただ、その能力が使えない時のことを考えて自作で顕微鏡を作りました。
第2話のレビューで、「知識があるだけじゃ話進まないならチート能力を与えるのはしょうがない」という話をしましたが、この能力は「顕微鏡を自作できるんだから要らないんじゃ」と思うんですがどうなんでしょう。

後半:皇帝の肺結核の治療

父親と一緒に皇帝の診察にいったところ、「明日の夜がヤマだ」という状況でした。
主人公は、父親含めたくさんの医師や薬師がいるのも係わらず何もできないのを見て「見てらんねえぜ」とばかりにチートスキルを使って治療を申し出ます。
当然父親は「未熟者が戯れ言を申すな、下がっていろ!」と怒鳴りますが、皇帝は主人公に任せることにします。
皇帝が任せたにも関わらず父親が物凄い邪魔しにかかってきますが、主人公は杖なしの無詠唱神術で対抗します。
それを見た父親は「おまえは何者だ…!?」と主人公の異常に気付きます。

皇帝と言っても女帝でした。
気付けば第1巻で治療した人全員女なんですよね。
たまたまなんでしょうか。なんか今後もずっと女ばっかり治療しそうな予感がします。
男がゼロってことはさすがにないでしょうが。

あらすじでは有能な主人公の邪魔をする父親みたいな感じになっちゃいましたが、父親の側の気持ちも実はよくわかります。
この世界の人々からしたら不治の病なわけで、そこに子供が「新薬があります」とか言ってきてもそりゃねぇ。
しかもその薬が子供が神術で作った液体ですからね。

出典:異世界薬局 1巻より

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そりゃ説明を求めますよ。
現代日本でも、医者が匙を投げた末期の癌患者に「この魔法の水を飲めば治りますよ」って言ってくる奴がいたら「ちょ待てよ」となりますもんね。

 

科学と神術

この世界の医療は、主人公曰く呪術まがいの民間医療に傾倒しています。
なので主人公はちょいちょい心の中でバカにします。
ですが、「神術=魔法」があって、「転生」があって、「神様」がいてもおかしくない世界で呪術まがい」というのが本当におかしなことなのか、という疑問はあります。
主人公も、バカにする割りにはそういうことも考えてます。
第2話でこんなシーンがありました。

出典:異世界薬局 1巻より

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神術があろうとなかろうと、治癒率が低いわけだからこの世界の治療のやり方は間違ってるということですね。
確かにデータを見比べれば、今の異世界人たちがやってる治療法が現代医療よりもダメとは言えるでしょう。
ただそれに代わる治療法が、主人公しか使えない神術を使った治療ってのはどうなんでしょう。

 主人公 「そのやり方は間違ってる!」
 異世界人「じゃあどうすれば?」
 主人公 「僕が神術で薬を出す!」
 異世界人「私たちはどうすれば……」

となりますよね。
自分は神様から授かったと思われる能力で薬を作れるからいいものの、本来なら文明レベルに合わせた治療法しかできないわけですから、治癒率が低いのはしょうがないですよね。
それとも今はとりあえず手っ取り早いからそうやってるだけで、今の文明レベルでも作れる薬なんでしょうかね。医学知識が全くないので調べてもわかりませんでした
それなら今後は異世界人にも薬を作れるようにするって話が描かれるべきでしょうけどどうなんでしょう。
じゃないと「この世界の人々のために医薬の普及と奉仕がしたい」とはならないですしね。

こういう漫画のコンセプトって素直に考えれば「呪術まがいの医学を否定して現代医学で俺TUEEEする」=「迷信を否定して現代科学で俺TUEEEする」かなと思うんですが、実は必ずしもそうなってないんですよね、この漫画。
迷信を否定するはずが、その迷信が正しかったっていうシーンがいくつかありました。

出典:異世界薬局 1巻より

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「だいたい火傷は青白く光ったりなんてしないものよ!そうでしょう?」
完全に論破されちゃいました。

出典:異世界薬局 1巻より

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まぁ転生で助かったわけなのでポーションが効いたのかどうかはわかりませんが、どちらかと言うと、異世界の薬「ポーション」がどういうものなのか知らないうちにバカにしたことの方が気になりました。

出典:異世界薬局 1巻より

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これは画像以外のところでも、「おいおい病名特定できてないのかよ」みたいに思ってたこともあり、現代人の思い上がりみたいなものが指摘されたようなシーンになってます。

これらが意図的に作られたシーンなのかどうかで話がかわってきますけど、「科学と神」といった神学的・哲学的な分野に踏み込んでいったら結構面白いかなと思いました。まぁ考えすぎでしょうけどねw

 

総評と今後

基本的には現代知識チートで俺TUEEEする漫画のはずです。
ただそれだけには必要のない神力(魔力)チートもあり、今巻でもちょっとしたバトルも見せたので、今後そっち方面でも俺TUEEEがあるかもしれないですね。
いきなり皇帝の命も救いそうですし、主人公のサクセスストーリーが展開されるのは間違いないでしょうが。

画力は安定して高いです。話の構成の方もベタっちゃベタですが安定してるんじゃないでしょうか。
ただ表現にオーバーな部分が見られるのは好き嫌いが分かれるところかもしれません。ていうか私は若干苦手です。「わかりやすい」というメリットでもあるのですが。

レビューで書いた通り、現代知識チートを行うために神術チートを利用せざるをえないというところに、ご都合主義や矛盾みたいなことを感じる人もいるかもしれませんが、そこは「神様の仕業」ということでうまいことリアリティ持たせられたらいいのかなと思います。「神様の仕業って時点でご都合主義だろ」と思われたらしょうがないです