かってに漫画レビュー

漫画を勝手に分析したり考察したりして感想を書いていく予定です。

【漫画レビュー】内藤死屍累々滅殺デスロード 全5巻

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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作品名:内藤死屍累々滅殺デスロード

作者:宇津江広祐

連載誌/レーベル:サンデーうぇぶり

出版社:小学館

ジャンル:少年マンガ

内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻 ebookjapan紹介文より

怪物VS超能力者。意味深パニックホラー! ごく普通の会社員・内藤は態度の悪いコンビニ店員にぶち切れ、突如巨大な怪物に変身する。そのまま一夜にして名古屋市を壊滅させ、内藤は世界で最も危険な存在となる。その一方、内藤に呼応するかのように、不思議な「力」に目覚めた高校生・タスクとクロ。この力を何に使うべきか… 答えは一つ。絵に描いたようなヒロイック展開には大きな秘密が…!! 意味深展開続々の、ニューウェイブパニックホラー!!

ぶっちゃけこの紹介文では、この漫画の魅力の1割も伝わらないと思います。
まぁ1巻の時点ではしょうがないのですが。
重要な部分はネタバレしないよう配慮しつつレビューしたいと思います。

 

登場人物

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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村越奨(むらこしたすく)

通称タス君。
脚本上の名前はキューリック。物体をブロック状に切り刻むようにして破壊する。

 

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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久路剣介(くろけんすけ)

通称クロ。
脚本上の名前はルーカ。物体を触れずに移動させる。

 

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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西沢咲(にしざわさき)

通称サキ。
脚本上の名前はティーノ。テレパシスト。世界中の人間とコンタクトがとれる。他人に自分の頭の中のイメージをうつすこと、コントロールもある程度可能。

 

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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内藤徹夫(ないとうてつお)

普通の会社員だったが、怪物となってしまった。
彼が高校生の頃に作った映画の脚本通りに物語が進んでいく。

 

ざっくりとしたあらすじ

ある日、会社員の内藤徹夫は怪物と化し、名古屋を壊滅させます。
一方、同じ頃に超能力に目覚めた高校生のタスクは、同級生で超能力者のクロと共に名古屋に向かう決心をします。
さらに、新たな超能力者サキも登場し、怪物を倒すには5人の超能力者が集まる必要があることを告げます。
しかしその一連の出来事は、超能力も含め、かつて内藤徹夫が高校生の時に考えた映画の脚本そのままだったのでした。
脚本の続きがどうなるのかは明らかになっていません。
虚構と現実が重なりながら、エンディングへ向けて物語は進んでいきます。

 

見どころ

「内藤」という怪物

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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第1話の見開きタイトルページです。
「なんじゃこりゃ」と思うかもしれませんが、ここに主人公とヒロインと、敵である怪物が勢ぞろいしています。
「いやいや、裸のおっさんがいっぱいいるだけじゃん」と思うかもしれませんが、これが怪物「内藤」なのです。

内藤徹夫は、日々の生活と自らに不満を持つ平凡な会社員でした。
しかし、コンビニ店員の態度と、それに不満すら言えないような自分への嫌悪が限界突破し怪物と化しました。

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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内藤はその後、根のようなものを張り巡らせ、人々から養分?を吸い取り巨大化し、名古屋を壊滅させました。

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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さらに巨大内藤は、約1200体のミニ内藤をばら撒き被害を拡大させるわけですが、そのうちの1体をタスクとクロが倒すことになります。

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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約1200の内藤というパワーワードと、様々な姿に変化する怪物「内藤」にワクワクします。

 

リアリティのあるメタ描写

メタ描写とは物語の登場人物が「これは物語だ」ということを認識したうえで発言したり行動したりすることと思ってください。
この漫画は、物語の中に物語を作ったうえで、その物語の通りに現実が推移している中での言動なので、リアリティのあるメタ描写といった感じになっています。この説明で伝わるかなぁ

 

内藤徹夫がそう「設定」したからか?

世の中にはご都合主義的な漫画が数多く存在しています。
突然主人公がチート能力を手に入れたり、主人公を持ち上げるために周りの知能や能力を下げたり、都合よく主人公の味方になる美少女が現れたり・・・
あの界隈でよく見るヤツですね。
この漫画もそんな感じで始まりました。
突如あらわれた怪物。同時期に目覚めた都合のいい超能力。そしてヒロイン。

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 1巻より

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しかし「内藤徹夫が考えた設定通りに世界が変化した」と宣言することによって、どんなご都合主義な展開でも、この世界のルールとして許されるものとしてしまいました。
幽霊が出てくるホラー漫画で「幽霊なんていないよ」と言ってもしょうがないように。
魔法を使うファンタジー漫画で「魔法なんてないよ」と言ってもしょうがないように。
内藤徹夫が考えた設定が現実となる漫画で「そんなこと起きないよ」と言ってもしょうがないのです。
この物語の世界のルールでは、それがリアルなのです。

 

おそらくこれはそういうゲームなんだよ。

一連の出来事が、内藤徹夫が考えた5人の超能力者が怪物を倒す物語だということに気付いた主人公たちは、オチを予測してその通りに行動することにします。

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 2巻より

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こうして、怪物を倒しに行くという要素の他に内藤が考えた物語を追うという要素の2つのストーリー軸が生まれました。
これが、この漫画がただのパニックホラーじゃなくなったターニングポイントだと思います。

 

あれは「死亡フラグ」なんじゃないのか?

タスクとクロはミニ内藤と戦いながら、巨大内藤のいる名古屋に向かいます。
その途中の会話で、自分たちの意思による会話なのか脚本によって決められた会話なのか疑問に思うシーンが出てきます。

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 2巻より

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ここらへんが面白いと思ったのですが、割と深掘りせずに終わっちゃいましたね。
また、クロの能力が一気に成長して、さらに「主人公補正」を利用するくだりも出てきて、ミニ内藤との戦いは楽勝になっちゃいました。
作者が描きたいことを描くのには全5巻でちょうどよかったのかもしれませんが、ここらへんのエピソードを厚くして、全10巻くらいにした方が漫画全体の面白さ的にはよかったような気がします。
苦戦しながら成長し、自分たちの行動が自分たちの意思なのか脚本によるものなのか悩みながら、絶体絶命のピンチで「主人公補正」に気付く。
という流れが見たかったかな、と個人的には思います。

 

君達は物語上のキャラクターにすぎないのかもしれないよ

一方、ヒロインのサキもミニ内藤と精神バトル(首絞め)を繰り広げます。
そのバトルにおいてヒロインの過去がほじくり返されるのですが、そのエピソードが素晴らしいです。
ミニ内藤は「過去編を長々とやるのは下手な脚本なんだけどね。」とメタ発言をしますが、私は一気にヒロインに感情移入して好きになりました。

ただ、そんなふうにヒロインに感情移入させた後にこう来ます。

出典:内藤死屍累々滅殺デスロード 2巻より

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ただ実はこれは、一部のノンフィクション以外の物語全てにおいて言えることのはずです。
どんなに好きな漫画の登場人物も、所詮は物語上のキャラクターにすぎません。
彼らの生い立ちも過去も、それどころかその存在自体が、物語が作られた時にはじめて作られた虚構にすぎないのです。

しかし、それをわかっているはずの読み手も、彼らの死に泣いたり、彼らの幸せを願ったりしますよね。
それは、物語を一つの世界と捉えて、彼らをその世界に生きている住人として認識しているからではないでしょうか。
この漫画は、そういったことを読者に意識させるのにうまいこと誘導していると思います。

 

ラストへ向けて

ここまでで2巻とちょっと、といったところです。
この後、内藤の過去が明らかになったり、残りの超能力者が出てきたり、強い内藤と戦ったりします。
途中、中だるみもあるっちゃあるのですが、各所に散りばめられた伏線がラストに向けて一気に回収されていきます。
二転三転四転五転と、最後まで意外な展開が続くのも見事です。
ほんとによく練られたストーリーだと思います。

ネタバレしたら勿体ないのでこれ以上詳しくは語りません。
是非読んで確かめてみてください。

 

総評

 

何気なく読み始めたのですが、最終的に「とんでもない漫画に出会ってしまった」と思いましたよ私は。
発想はもちろん、その発想をここまで形にしたのがスゴイです。
フィクションに対して、なんとなくこういうことを考えたことはあったとしても、ここまで形にするのはなかなか大変だと思います。
特に、小説や漫画を書いた(もしくは書こうとした)人なんかはグッとくるんじゃないでしょうか。

気になるのは、哲学チックな語りが多いところですかね。
まぁ個人的には嫌いではないのですが、飽きる人もいるかなと思います。
画力の問題もあって、怪物vs超能力バトルの見応えがそれほどでもなかったので、全体的に万人受けするようなエンターテイメント性は薄いかもしれないですね。
両立するのは難しいかもしれませんが、もしできてたら相当すごい作品になったと思います。

同作者の他の作品が見つからなかったので、処女作なのかな。
つたない部分も感じますが、だからこそ生み出せた作品なのかもしれないですね。
物語を作るということに対しての強い思いが感じられました。